ハラスメントの相談先が機能していない 〜声をあげても変わらない現実〜
ハラスメントの相談先が機能していない
〜声をあげても変わらない現実と、その打破に向けて〜
「何かあれば、遠慮なく相談してください」
多くの組織で掲げられるこの言葉は、本来、ハラスメントに苦しむ人々にとって一縷の希望となるはずでした。ところが現実には、「相談しても無駄だった」「むしろ状況が悪化した」という声が後を絶ちません。なぜ相談窓口は機能不全に陥ってしまうのか。そしてこの現状を打破し、真に被害者を守るためには何が必要なのでしょうか。
なぜ相談窓口は機能しないのか?
相談窓口が役割を果たせない背景には、いくつかの根深い問題があります。
-
担当者の知識・スキル不足
ハラスメントの種類や影響、適切な対応に関する専門知識を持たな -
い担当者が配置されている場合があります。感情的な傾聴はできても、具体的な解決策の提示や関係部署との連携ができないケースです。
-
組織の隠蔽体質と責任回避
ハラスメントの事実を認めることが組織のイメージダウンにつながるとして、問題を矮小化したり、当事者間の問題として片付けようとする傾向があります。相談窓口が独立性を保てず、組織の意向に左右される場合も少なくありません。 -
二次被害のリスクと不安
相談したことが加害者に伝わり報復を受けるのではないか、周囲から「面倒なことを持ち込むな」と白い目で見られるのではないか──被害者は相談すること自体に大きな不安を抱えています。 -
相談後のフォロー不足
一度相談しても、その後の状況確認や再発防止策が講じられないと、「結局何も変わらなかった」という失望感だけが残ります。被害者は自身の訴えが無意味だったと感じてしまいます。 -
制度の不備と曖昧なルール
相談窓口の設置は義務付けられていても、具体的な運用方法や責任の所在が曖昧な場合があります。形式的な要件を満たしていても、実質的に機能していないケースが見られます。
声を上げても変わらない現実が生む負の連鎖
勇気を振り絞って相談したにもかかわらず、適切な対応が得られない現実は、被害者に深刻な影響を与えます。
-
精神的な苦痛の増大
誰にも頼れない孤立感、不当な扱いへの怒りや悲しみ、将来への不安が複雑に絡み合い、うつ病やPTSDといった精神疾患を引き起こす可能性があります。 -
自己肯定感の低下
「自分が悪いのではないか」「訴えても無駄だ」と感じ、自己肯定感が著しく低下します。 -
組織への不信感の増幅
相談窓口だけでなく、組織全体への信頼を失い、エンゲージメントの低下や離職につながる可能性があります。 -
ハラスメントの潜在化
「言っても無駄だ」という認識が広がり、潜在的な被害者が声を上げづらい状況を生み出します。結果として、ハラスメントが蔓延しやすい組織風土が形成されます。
現状を打破するために、私たちがすべきこと
この負の連鎖を断ち切り、ハラスメントのない社会を実現するためには、組織、被害者、そして社会全体が連携して取り組む必要があります。
1. 組織の責任と意識改革
-
トップコミットメントの明確化
経営層がハラスメント撲滅に向けた強い意志を示し、組織全体に浸透させること。 -
独立性と専門性を確保した相談窓口の設置
外部機関との連携や専門知識を持つ担当者の配置が不可欠です。相談者のプライバシーを徹底的に守り、安心して相談できる環境を整備する必要があります。 -
透明性の高い調査と厳正な処分
ハラスメントの訴えがあった場合、公平かつ迅速に調査を行い、事実が確認された場合は加害者に対して厳正な処分を下すこと。そのプロセスと結果を、プライバシーに配慮しつつ、適切に開示することも重要です。 -
再発防止策の徹底
個別の事案への対応にとどまらず、ハラスメントが発生しにくい組織風土づくりに向けた継続的な取り組みが必要です。研修や啓発活動を通じて、全従業員の意識改革を促すことが求められます。 -
被害者支援の充実
精神的なケアや必要に応じた法的支援など、包括的なサポート体制を構築する必要があります。
2. 被害者のエンパワーメント
-
相談する勇気を支える情報提供
相談窓口の存在や利用方法、相談後の流れ、利用可能な外部機関の情報を積極的に提供し、被害者が安心して行動を起こせるようにサポートする必要があります。 -
二次被害を防ぐための知識習得
相談時やその後の対応において、自身を守るための知識(記録の重要性、証拠の保全など)を身につけることが重要です。 -
声を上げるネットワークの構築
労働組合や支援団体など、同じような悩みを抱える人々との繋がりを持つことで、孤立感を軽減し、行動する力を得ることができます。
3. 社会全体の意識向上と法整備
-
ハラスメントに対する社会的許容度を下げる啓発活動
メディアや教育機関を通じて、ハラスメントの定義や影響、加害行為の責任について、社会全体の理解を深める必要があります。 -
実効性のある法規制の強化
ハラスメント防止対策を義務付けるだけでなく、違反した場合の罰則規定を設けるなど、より実効性のある法整備が求められます。 -
第三者機関による監視と評価
相談窓口や組織のハラスメント対策の実施状況を、独立した第三者機関が監視・評価する仕組みを導入することで、透明性と信頼性を高めることができます。
ハラスメントのない社会は、決して遠い夢ではありません。一人ひとりが問題意識を持ち、それぞれの立場で行動することで、必ず現状を変えることができます。声を上げても変わらないと諦めるのではなく、変わるために声を上げ続けること。そして、その声を社会全体で受け止め、支え合うこと。それこそが、誰もが安心して働ける社会を築くための第一歩となるのです。